ニコニコ学会はガラパゴスか?

ガラパゴス」というとガラケーを代表に否定的なイメージがつきまといますが、あえてタイトルにつけてみました。
この文章では「尖っていて、ユニーク」な良い面と「島国的で隔離された」課題面の両方を表しています。

今日はちょうどニコニコ学会開催から1週間たちました。ニコニコ学会についての感想ブログがちらほらでてきたのに加え、今日は参加者、登壇者によるアフターパーティーの日です。
本当は参加したいのですが東京にいないため参加できません。そこで今回のブログを通して、少しでもみなさんの議論の糧になれば幸いです。

1. 私の立ち位置

ニコニコ学会がガラパゴスかどうかを論じる前に少し私自身のご紹介。

私はイギリスのロンドンに滞在して9年になります。外資系金融や小さなソフトウェア会社で8年ほど働いた後、今年の7月に起業しました。
今年の10月にTechCrunch Tokyoのスタートアップバトルというイベントに参加するため東京に滞在した際、ニコ動やボカロのことを色々学びました。その延長としてニコニコ学会のことを知り、次回の開催がちょうど年末の一時帰国の日程と重なっていると知ったのはマッドネスの一次応募締切のちょうど当日でした。

おかげさまでニコニコ学会には生で参加できただけでなく、研究してみたマッドネスに「学習としての動画可視化」という題で実際に登壇できたのは貴重な体験でした。
学会終了後の打ち上げで主催者の江渡浩一郎さんとちょっとだけお話しした際「どうやったらニコニコ学会をもっとよくできるんだろう」といった趣旨のことを首をかしげながらしきりにおっしゃっていたのが印象的でした。そうなんですよね、会の主催者として長く関わっているようになると「外からどのように見られているか」といった視聴者の視点というのがわからなくなってしまいます。自分では当たり前だと思っていたことが見る側に全然伝わっていなかったり、まったく違う意図にとられていたりすることもあります。そこで「ニコ動」という文脈からも「日本」という文脈からもかなりかけ離れた位置にいる私の感想を共有することで、会の運営者の方々の今後の参考になるのではと思いました。 気分的にはガラパゴス島をおとずれたダーウィンの心境でお読み下さい。

2. 尖っていて、ユニーク、でも地に足がついている

私が今回一番楽しんだのは「研究100連発」、次が「研究してみたマッドネス」でした。

「研究100連発」の濃度の濃さは他のカンファレンスに類を見ないのではないでしょうか。 登壇された先生方は各分野の超一流な方々ばかり。その先生方が自分の研究の歴史を振り返りながら、最先端の研究に至るまでの道のりをテンポよく、しかも初心者にも分かりやすく説明してくれました。特にトップバッターの伊福部達先生が「研究してみたけど全然わからなかった」「研究すればするほど謎は深まるばかり」と正直におっしゃっている箇所が非常に新鮮でした。お偉い先生らしくない。研究の初期の失敗の積み重ねが、後の研究の成功のための糧となる過程を凝縮してみることができるのは「研究100連発」の醍醐味だと思いました。見ていた私ですら「ひょっとしたら今全然ものになっていないものでも、継続し続ければなんとかなるかも」という気にさせてくれました。

次の「研究してみたマッドネス」は自分自身が登壇したということでまた別の楽しみが味わえたと思います。

今回も「全力で彼女をつくる」や「インターネット内の住人が実世界に送り込むアバター(実体)を開発している」などのハードウェア系のハックやOculus Riftを用いた拡張現実的なハックなど、難易度が高そうな発表が多かったようです。Oculus Riftに関してはゲームを使ったデモを実演しているのをロンドンのイベント会場で一度目にしましたが、日本人の手にかかるとあっという間にミクさんと添い寝したり、抱きついたりできるようにするまでハックする野生の研究者達すごすぎです。
先月Tech Crunch Tokyo にいた時に思ったのですが、ハードウェア系のハックは日本は海外の1〜2週先を回っているなという気がします。だいたいハードウェア系のハックといえば「AudrinoかRaspberry Pieを使って何かしよう」となるのが海外(私の知っている例はイギリスだけですが)ですが、日本、特に東京だと「秋葉原にいってパーツ買ってきて1から作る」なので基礎からして圧倒的に日本が優位かなと思いました。

たぶん今回もっとも尖っていたのは「きのこ会議」だったのではないでしょうか? あいにく次のマッドネスの準備のために私はライブでほとんど見ていなかったのですが、ニコ動のコメントがひたすらきのこ会議の話題で持ち切りでした。「いきものマテリアル」のセッションもそうなのですが、ウェブ系、工学系が中心であろう今回の学会の視聴者になじみがないトピックを面白く、分かりやすく紹介してくれたという点でニコニコ学会は他の会議やカンファレンスとは一線を画す存在ではないかと思いました。

肝心の私のトークなのですが、周りの度肝を抜かれるトークに比べて非常に地味だったと思います。
今回の「研究してみたマッドネス」のトピックが「見る、見られる」だったのでひょっとしたら私の動画反復アプリについてのトークも採用してもらえるのではと思って応募しました。過去のトークにロボットとかすごい人たちばかりでていたので、あのトピックでなければ応募していなかったかもしれません。

話してみた実感ですが、3分は本当に短い!! 練習では2分30秒で収まるように何度も練習していたのですが、本番では時間切れになってしまいました。

ニコニコ動画のコメントがリアルで流れる点を意識して「コメントって意味ないですよね」と煽るセリフをいれて、コメントとのリアルでのやり取りを期待したのですが、自分が話している途中は画面に流れるコメントに気を配る余裕は全くありませんでした。でも最後に自分のトークが終わった後にちょろっと流れていたこのコメントだけは目に入りました。

2013 12/21 7:46:02 内輪っぽくない野生の感じがよかった


確かに。他の登壇者と色々話す機会があったのですが、皆さん別のイベントとかでつながっている場合が多いのですよね。ちょっと「内輪の集まり」的においがしました。そういう意味では『東京タヌキ探検隊!東京コウモリ探検隊!』の宮本拓海さんと私は「マッドネス」の幅を広める役目は果たせたのではないかと思います。

審査結果で選ばれる最後の4組に私は箸にも棒にもひっかからず、当初は「やはり度肝を抜くような新規性やユニークさがないからだ」と思っていたのですが、それだけではなかったと思います。学会の後の飲み会の席で、隣り合わせた審査員の方から「井上さんのトークで残念だったのは、実際に実験してみた後の調査結果に触れられていない点でした」とのコメントをいただき、まさにその通りだと思いました。私は自分のアプリの紹介にばかり気がとられ、実際にそれがどう使われているかについての説明が不十分だったと思います。他の方々はたとえ数人でもいいから実際に作品をつかってもらった感想や気付きを述べていました。そういう意味では『 Twinkrun:環境に溶け込む拡張現実感を用いたゲーム』のpoyoチームが「自分の色を知るには、相手のカードを見るだけではなく、相手の(自分の色を見た後でとった)行動
を通して初めて可能」という観察結果を元にした知見を延べ、またそれが評価されてpoyoチームが最終選考まで残りました。この点は、ニコニコ学会が地に足の着いた存在として、非常に評価されるべきだと思います。

3. 島国的で隔離された

そんないいとこずくしのニコニコ学会ですが、ただ良い点をほめただけでは次につながらないと思うので、今後への課題点も3つ提起してみます。

3.1 登壇者たちはお互いに隔離されていなかったか?

今回の第一セッションは、他の方も批判されていますが、ニコニコ学会の問題点を凝縮していたように思います。確かに問題発言かと思われる内容や、出演者の話しがあまりにも噛み合ない点がありました。通常そういった点を円滑に回すのが司会であったりモデレーターであったりするのですが、今回はモデレーター不在のように感じました。そもそも座長って何なんでしょう?外部からみたところ、セッションの課題にあったスピーカーを選ぶための「キュレーター」の役割と、話しがかみ合うようにする「モデレーター」としての役割があるように思えます。「キュレーター」としては異なる分野の方をよんできた点、特に「ホリエモン」こと堀江貴文さんを呼んだことは関心を高める点では成功したように思えます。しかしながら登壇者間での文脈の共有が事前に計られていなかったようで、渋谷慶一郎さんの時にはいくつかの沈黙の時間を、そして堀江貴文さんとの時には「わからない」の応酬を招いたように思えます。

ニコニコ学会はいろいろなセッションの集まりなので第一セッションの座談会みたいな毛色の違うセッションがあるのは良いことだと思います。しかしながら初めてのニコニコ学会の視聴者があそこで離脱した人も多かったのではと思います。次回からはニコニコ学会の目玉で、なおかつフォーマットも安定している「研究100連発」を第一セッションに持ってきて、中身の予想が難しい座談会は、マッドネスの直前に持ってきた方が良いかとも思いました。

3.2 ニコニコ動画は聴衆を登壇者から隔離していなかったか?

私が最初にあげた課題は、「そもそもあまりフォーマットのない座談会を仕切る完璧な方法なんてあるのか?」という反論を招きそうですが、議論が停滞したりすれ違った時点で聴衆の声を入れてみるという方法があります。しかしながらニコニコ学会を通じてスタジオの出席者が意見を発する場が全くなかったのは個人的に不満でした。とくに「大学は必要か否か」という点に関しては、自分の意見を言いたかった人はたくさんいたのではないでしょうか(私もその一人です)? もちろん生放送中に会場の一人一人までマイクを持っていくのは不便な点もあるとは思います。ではニコ動にコメントすれば良かったのでしょうか?それも当てはまらないと思いました。

私は本当に一月ほど前までほとんどニコ動をつかったことがなかったのですが、あの場にいてようやく気がついたのは「ニコ動のコメントは意見を議論する場ではなく、その番組の熱さを表すバロメーター、ちょうどサッカー会場の観客の声援に似ている」ということです。もちろん大量の「8888888888888888888」をもらって嬉しくない登壇者はいません。でも多くの「wwww」 「8888 」間にはさまれた鋭い指摘や感想はまったくといっていいほどかき消されてしまうようです。唯一そのか細い声を拾っていたのは2nd session「いきものマテリアル」の座長である福地健太郎さんだけでした(キノコ会議は見ていないのでなんとも言えませんが)。

3.3 ニコニコ学会は世界から隔離されていないか?

話す内容やトピックは非常に多岐に渡ったものでしたが、登壇者は全員日本人、女性はとよ田キノ子さん一人、そして海外から参加した登壇者は(たぶん)私一人でした。
そもそも主言語が日本語なので致し方ない面もあるかもしれませんが、ニコファーレの会場にいた際の「単一人種」感は海外から帰国した翌日の私には結構圧迫的でした(もちろん他の東南アジア系の参加者がいたかどうかはわかりかねますが)。 またニコニコ動画は国内では知名度があっても海外ではあまり知られていません。今回の放送のタイムシフト版(プレミアム会員以外にも解放して下さってありがとうございます)を海外の友人に見せようと思っても「まずは会員登録してください」というのは結構ハードル高いです。

もし今後海外での知名度を高めたいのであれば(高める気がない場合は余計なお世話ですみません)以下があると良いかと思います。

  • ニコ動で流すと同時にYoutubeにも同時中継する
  • ニコニコ学会の放送内容をコピーフリーとすることで自分の好きな部分を切り取ってYoutubeに転載可能にする(もしすでに出来ていたらごめんなさい)
  • 海外在住日本人や、日本在住外国人の参加を積極的に呼びかける
  • 英語でイベントの結果を発信。

最後の「英語でイベントの結果を発信」は私一個人でもできることなので、現在絶賛執筆中です。少々お待ちください。

2014年1月3日更新:できました。"Nico Nico Gakkai: the craziest Japanese science conference ever"