ロンドン起業日記のその後(2014年1~3月)


(この3ヶ月お世話になっていたGeckoboardのダッシュボード画面)

これまでの経緯

Benkyo Player LTDという会社を7月に設立してからはや9ヶ月、そして現在注力している反復学習ビデオプレーヤーStepUp.ioを作り始めてから半年経とうとしています。詳しい経過は「ロンドン起業日記」を買って読むなり、この日記の過去ログを見てもらえば良いのですが、かいつまんでいくとこんな感じです。

  • 2013年8月にハッカソンで反復学習アプリStepUp.ioを作り上げる
  • 2013年11月にサイトオープン。日本までもどってTech Crunch Tokyo Startup battle に参加したりする
  • 2013年12月にアメリカのソーシャルニュースサイトであるredditに投稿してプチヒット

年末に書いたエントリーでは「訪問者数増加や新規ユーザーというのは機能追加に関係なくマーケティング次第で増加は可能だけれど、リピータがあまりいないのでマーケティングの手を緩めるととたんに元に戻る」というのが最大の問題だと書きました。そしてその対応策を披露するはずだったのですが時間が経つのは早いものですぐにまた3ヶ月たってしまいました。そこで年初から何をしていたかを振り返るとともに、次の3ヶ月の目標をたてて行きたいです。


3つの変化

お正月に読んだブログかなにかで「自分自身を換えることは簡単にはできないけれど、自分の周りの環境を変えることは可能」みたいなことを読んで「なるほど」と思い、それを結構愚直に実践しました。特に行なったのは以下の3つです。

  • 「働く場所を変える」
  • 「ターゲット層を変える」
  • 「働く人を変える」

働く場所を変える

年末まではBGV(Bethnal Green Ventures)というインキュベーション施設がオフィススペースをただで提供してくれていたのですが、それも年末まででした。一緒にそこで働いていたスタートアップの多くは、その後も一緒に働けるオフィススペースを探し出し、引き続き同じメンバーで仕事をしています。私もお誘いがかかったのですが環境を変えたいと思い断りました。その時に同じくLondonでウェブエンジニアとして働いているたつやさんから「うちのオフィスはデスクがいくつか空いているから、2〜3ヶ月ぐらいの間だったら安く貸し出せるよ」とお誘いを受けました。「同じレベルにいるスタートアップと机を並べるより、自分たちより2〜3歩先をいっているスタートアップと机を並べる方が得るものは多い」と思い渡りに船とばかりに承諾しました。

そのスタートアップはGeckoboardといい、多くの分析データを1つの画面で共有するスタートアップです。会社が始まったのは2013年で、最初は創業者の人が一人で始めたそうです。現在では15人を超え、多くの優良企業を顧客に持ち、ベンチャーキャピタルからの大型の投資も受けた、ロンドンでいま注目なビッグデータ関連スタートアップの1つです。

「訪問者数増加や新規ユーザーを見ているだけで良いのか?」と疑問に思っていた時だったので、データ解析の専門家に囲まれながら仕事ができるのはすごく勉強になったし、たつやさんには色々悩みを相談することができて良かったです。

結局ここも3月の終わりには出て行かなければ行けなくなったのですが、次に移る場所もここで得た人脈を元にゲットしまいした。


「ターゲット層を変える」

年末まではRedditを通して単発で人は訪れるのですが、なかなかリピータがいないのが問題だったので、年初からはターゲットをいろいろ絞ってみました。

まず1月はギターを練習している層に向けてまたredditなどを使いアピールして行きました。すると1月の半ばぐらいにイギリス人の著名ギタリストの人が「StepUp.ioギターの練習にいいよ」とfacebooktwitterで告知してくれたおかげで、一晩に600人ぐらいの人がサイトを訪れてくれました。一日の訪問者数が20〜30人ぐらいでちょろちょろしていた時期なのでこれはすごいことです。しかしながらその後がなかなか伸び悩んだ上、http://soundslice.com や http://chordify.net といった競合サイトをいくつか発見しました。通常競合はあまり気にしないようにしているのですが、上の両者はギターの練習に特化していて、ミュージックビデオから楽譜を自動生成してくれる機能などはとてもじゃないけれど太刀打ちできません。

「どうしよう」と思っていたところに第2のブレークが訪れました。年末からフィリピンの女子大生をやとってStepUp.ioのユーザーテストをしてもらっていたのですが、彼女にゲストブログを書いてもらうことにしました。彼女はギターやピアノの練習などでStepUp.ioを使っていたのですがブログではKPopグループ「少女時代」のダンスの練習について書いてもらい、これをまたまたredditに投稿したら一晩で1000人近い訪問客が訪れました。しかもこのブログを書いた直後ぐらいに少女時代の新曲がリリースされました。新しい曲がリリースされた直後は、みんなが一時もはやくダンスの振り付けをマスターしようと思っています。そこで振り付けされた曲をいちはやくStepUp.ioに載せたりなど、KPopダンス層にアピールできる曲を自分たちで追加することでリピータを増やそうとつとめました。

年末にJPopやボカロをターゲットにした時にはなかなか食いついてもらえなかったのですが、KPopは英語情報がたくさんあるせいか、比較的みんなStepUp.ioに抵抗なくサインアップして自分のお気に入りの曲を追加してくれました。なかには2分の曲を5時間にわたって繰り返しているユーザーもいたりしてなかなか有望そうです。

そこで2月の終わりから韓国人の方をやとってKPop分野を充実するようつとめています。

そして3月になってKPopと平行してさらなる分野を開拓中です。それは「カンファレンスビデオ」。私はカンファレンスに参加するのが大好きなのですが、自分が行けなかったカンファレンス、また行っても見ることができなかった講演などがあったりします。そういった講演をビデオで収録したものが後日出回ることが多いのですが、1時間以上するビデオを見る時間はなかなかなかったりするものです。そこでStepUp.ioを使って60分のビデオを10分に短縮したバージョンを作ったり、目次的な使い方ができることをアピールするようになると3月ぐらいからブログで色々取り上げられるようになりました。1月には1つのブログでしか取り上げられていなかったのに3月だけで急に19ものブログで取り上げられました。しかも面白いことに英語のブログは2〜3で、あとはスペイン語、フランス語、イタリア語、日本語、韓国語と雑多です。

働く人を変える

11月からインターン生を雇っていて、3月に契約更新を控えていてどうしようか迷っていました。しかしながら私のメンターから「Hire fast, Fire fast」(素早く雇い、素早く首にする)というアドバイスを貰い、更新しないことにしました。11月から頑張ってくれてはいたのですが、私の求めている役割と完璧にはマッチしていなかったので、惰性で雇い続けるよりはっきり「こことこことここの部分が足りないから申し訳ないけれど雇い続けることはできない」と説明すると納得してくれたようです。雇用というのはその人の人生を左右することなので簡単な気持ちで行なうことはできません。そして足りない部分があっても成長して補ってくれる可能性もあります。それでもなお人に「もうこなくて良い」というのはなかなか難しいですね。

あと6月からいろいろデザインを手伝ってくれていたさゆりさんも日本に帰国することになり、代わりのデザイナーも必要です。こちらもまだ代わりの方は見つかっていないのですが継続して人を捜しています。今ロンドンは景気もけっこう良く、とくにスタートアップはたくさん出てきている状況なので私のようなちっぽけな会社に対して優秀な方に注目して貰うのはなかなか大変です。

これからの3ヶ月

あと3ヶ月で会社創立1年になります。StepUp.ioを一般公開してから4ヶ月ちかくたち、少ないながらも使ってくれている人もいるし、ブログにも書いてもらえるようになったのでそろそろ次のラウンドの資金調達を考えています。

イギリスにはSEIS(Small Enterprise Investment Scheme)というスタートアップ向けの税制優遇策があります。スタートアップは15万ポンドまでこれをつかって資金調達可能で、投資家は毎年10万ポンド(千六百万円ほど)まで税制優遇を受けることが出来るます。具体的にはどういった税制優遇策かあまり勉強していなかったのですが、なんでも投資後3年以内にキャピタルゲインがあった場合に税金がかからないだけでなく、もしスタートアップ企業が倒産した場合も50%まで補填があるとか。これが知人のいうところ「今世界で一番おいしい投資家向けのプログラム」なんだそうです(まだ勉強中なのでまちがっているかもしれません。もうちょっと勉強したらまた詳しく書きます)。

イギリスの税制は4月にきりかわるので、今年の分のSEISはみんな使い切ったと思うのですが、4月の半ばから2014/15 年度の投資枠が空くらしいのでそれをめどにエンジェル投資を募っていこうと思います。いままでうけた投資や助成金は申し込み用紙に記入するだけでした。これからは自分で投資家探しをしたり、投資用の資料を作成したりと未知なことばかりですが、がんばっていこうと思います。