ヨーロッパの投資環境(Grants, SEIS, Equity Crowd Funding)

ヨーロッパの投資環境(Grant, SEIS, Equity Crowd Funding)を、実際に資金調達するスタートアップの目線からいろいろ調べてみました。

  • これまでの経緯
  • 助成金 vs SEIS (Seed Enterprise Investment Scheme
  • VC vs Crowd Sourcing vs エンジェル投資家
  • 私のアタックプラン

これまでの経緯

Benkyo Player LTDという会社を7月に設立してからはや10ヶ月経ちました。
これまではBethnal Green Venturesというシードアクセルレータから得た投資資金とNominet Trustから得た助成金でやりくりしてきました。

(詳しい経過は「ロンドン起業日記」を買って読むなり、この日記の過去ログを見てください)。

現在ほぼ一人でやりくりしているので資金的にはまだまだ余裕があります。
しかしながら個人プレーで続けるのにも限界が近づいてきているので、ここであらたな資金を注入してちゃんとしたチームとして活動しようと考えています。

そこでこの1ヶ月ほどいろいろ投資としてどういったオプションがあり、自分にはどれがあうのか調べてきたのでそれの途中経過報告をしたいと思います。

助成金 vs SEIS (Seed Enterprise Investment Scheme


通常イギリスのスタートアップ界隈で、3F(Friends, Family, and Fools)の次の段階の資金調達手段としてよく話題にあがるのが助成金(Grant)と
SEIS (Seed Enterprise Investment Scheme)を利用した個人投資家からの資金調達です。

助成金に関してはTechnology Strategy Board(通称TSB)という機関が中心になって多くの助成金プログラムを運営しています。「助成金」というとお固いイメージがつきまといますが、バイオケミカルといった分野からゲームなど本当にさまざまで、額も2百万ポンド(3億5千万円)をこえるような大型なものまであります。そして助成金はすべてが国からという訳ではなく私が助成金を受けたNominet Trust(.ukドメインの収入をもとに運営をする)のような非営利団体のものもあります。Innovate UKというところにいくといろいろなプログラムを検索可能ですし、なかにはGrant Treeといった助成金申請のコンサルティングで糧を得ている会社もあります。

SEISは逆に個人投資家から資金を得やすくするための税制優遇策です。

優遇策は主に三つあります。 詳しくは政府のサイトをみてもらえばよいのですが、要約するとこんな感じです(これをみて投資しようとした英国在住日本人の方は私の言葉を鵜呑みにせず原文を参照してくださいね)。

  • 所得税優遇(Income Tax relief) = 投資額の50%分を所得税から相殺
  • キャピタルゲインの優遇(Capital gains re-investment relief) = スタートアップが買収されるなどして、株の売却益を得た場合、その分を再投資にまわすとキャピタル・ゲイン税を払わなくてよい
  • キャピタルロスの優遇(Capital gains disposal relief) = スタートアップがつぶれた際の優遇措置なんですがちょっとよくわかりませんでした。どなたか詳しい人に教えてもらいたいです。

特に1番最初の「投資額の50%分を所得税から相殺」というのが事実上「投資額の半分はかえってくる」ことになるのがこの優遇策の一番のポイントだそうです。

ちなみ制限としては

  • スタートアップ企業がこれで調達できるのは£150,000(2千5百万円)以内
  • 投資家ごとの投資上限は£100,000以内(千7百万円)
  • この制度に合致するスタートアップは「設立2年以内」「従業員25人以内」「総資産 £200,000(3千4百万円) 以内」などいろいろ制限がつく

この制限に合致するためには申し込みをしなければいけないのですが、申し込み用紙は1枚だけなので非常に簡単です(私も現在申し込んでいて結果待ちです)。

スタートアップとして助成金とSEISの両方を狙う人が気をつけなければならない落とし穴が1点あります。

That figure of £150,000 must also take account of any other State Aid received by the company in the three years preceding the relevant share issue which is de minimis aid according to EU regulations.

http://www.hmrc.gov.uk/seedeis/how-to-qualify.htm より

£150,000の上限は他のState Aid(たぶん公的補助金のこと)もいれた総額らしいので政府からの補助金を3年以内に受け取った人はその分だけさっ引く必要があります。ちなみに私の助成金は公的機関からではないのでセーフ.

VC vs エンジェル投資家 vs Crowd Funding

で、だれから調達するかなのですが、通常だとVC(ベンチャーキャピタル)からの億単位の資金調達を連想するかもしれません。しかしながら私のような少ない人数でやってきた会社が、いきなり多額の資金を調達しても無駄遣いすると困るので時期尚早かなと思います。でも一度、エンジェル投資を受けた先輩起業家の方とお茶したときに「VCでも最近少ない額から投資するところも出てきたし、そもそも投資家との関係は早いうちから構築しておいたほうがよい」とアドバイスをいただいたので一応調べてみることにしました。

ヨーロッパのVCとか全然しらなかったのですが、調べているうちに面白いイベントを見つけました。「Capital On Stage」というカンファレンスではスタートアップがプレゼンするだけでなく、VCの代表者たちが5分間のプレゼンをするそうです。その模様は録画されてYouTubeでも視聴可能です。

昨年ロンドンであったイベントを視聴してみたのですが、VCの人たちってあまりプレゼンする側にまわる機会がないせいか、意外としどろもどろになったり、カンペよみながらする人たちがいたりして逆に面白かったです。

今年はロンドンはないそうですが、5月にベルリンであるそうです。参加スタートアップ企業は「シリーズA」と呼ばれる億単位の資金調達活動をしているところが多いので私には敷居が高そうですがだめ元で応募してみました(参加するだけなのにいろいろ審査があるんですよね、このイベント)。

で、次にあたるべきなのは「エンジェル投資家」と呼ばれる個人投資家なのですが、そんなにお金持ちなんて知らないのでどうすればよいか悩んでみました。ちまたには「エンジェルネットワーク」と呼ばれるエンジェル投資家と起業家とを結びつける団体や、斡旋してくれる会社もいるのですが、結構お金をとってきます。

「起業家からお金を要求する団体ってどうなんだろう」と思い、私が投資を受けたBethanl Green VenturesのOB/OGや関係者が所属するメーリングリストで相談したんですが「そもそも金のない起業家から金をぼったくるところは信用するな」派と「ネットワーキングにはお金かかるんだからある程度のお金を払うのはしかるべき」派の人に分かれていました。

先ほど相談した先輩起業家の方に「どこでそんな投資家と知り合ったの」と聞くと「なんかのディナーで知り合って意気投合した」とのこと。

イギリスはパブ文化で飲むだけのネットワーキングイベントが多くて辟易するのですが、レストランでの食事とネットワーキングイベントが融合した「Table Crowd」というイベントは、興味のある業界の人たちと知り合うチャンスを作りやすく、居酒屋文化からきた私にはうれしいです。もう3回も参加して、いろいろコネクションができたりしました。ここでのネットワーキングの成果が投資活動にも反映されればよいのですが。

そして最後にクラウドファンド。 クラウドファンドというとアメリカにある「Kick Starter」といったプログラムが有名ですが、これらは投資というよりも「気になったプロダクトやアーティストのパトロンになることで先約売買権を確保する」という意味合いが多いのです。しかしイギリスでは投資先の株も得ることができるEquity Crowd Funding というのがあります。 最近雨後の筍のようにいろいろ出てきているのですが、有名なのは2011年から行っているCrowdCubeと2012からと出遅れたもののFSA( Financial Services Authority)の認可を得ることで「イギリス発」の称号を得ているSeedrが有名です。

両者の比較記事をネットを検索したり、人から聞いたことをまとめると以下のとおりです(確認していない情報もあるので鵜呑みしないでくださいね)

  • CrowdCube経由だと議決権のない株式をもらえるが、Seedrだと株式はもらえない代わりにSeedrがProxy(代理)となり代わりに議決権を行使できる
  • 手数料はCrowdCubeのほうが安い、でもすでに他のエンジェル投資家がいる場合、Seedrはその分を手数料から免除するけれどCrowdCubeは一括で請求してくる
  • Seedrを通すとヨーロッパ全域から投資を募ることができるけれどCrowdCubeでは各国の支店の連携があまりできていない
  • 登録されている投資家の数はCrowdCubeのほうが多い

といった感じでしょうか。

あと両者に共通することですが、投資家用の資料をアップロードすれば投資家がよってくる訳ではなく、いかに早く投資額の30%分をクリアできるかが資金調達の鍵だそうです。そこであらかじめ自分の足て投資家を集めるおいて、クラウドファンドで自分のファンドの告知をした時にはすぐに何割が埋まっている状態にするのがこつとかなども教えてもらいました。

私のアタックプラン

そこで私のプランです。 
いきなりクラウドファンドを募るのも考えたのですが、まずは自力でエンジェル投資家の人たちを見つけ出し、もし目標額調達できなさそうだったら補足分だけCrowd Fundingで調達しようかと思っています。 まあエンジェル投資家とか全然知らないのですが、これから1〜2週間ほど先輩起業家の人たちをいろいろ訪問して投資資料に目を通してもらいつつ、彼らの知り合いのエンジェル投資家を紹介してもらいつつ、いろいろなイベントにこまめに出て発表していこうと思っています。 もしこの日記をご覧になった方で「イギリス(またはヨーロッパ)在住の知り合いでスタートアップ投資に興味ある」かたをご存知でしたら@makoto_inoueまでご連絡いただけるとうれしいです(もちろん日本人であるかどうかは関係ありません)。

4月22日追記:日本人でもイギリスのクラウドファンド参加可能か調べてみました。Seedrは「EU在住に限る」とあるのですが、CrowdCubeの方はスタートアップ側で支払い方法を選択していれば可能らしいです。