ヨーロッパ版起業家主導の経済圏

私がよく購読するグロービス・キャピタル・パートナーズの方のブログが
起業家主導の経済圏と題したエントリーで日本のベンチャー起業環境の変化を紹介されていました。とても興味深いエントリーだったので、わたしも彼のエントリーと比較しながら「じゃあUKやヨーロッパではどうなの?」というところを少しでも探っていければと思います。


起業家主導の経済圏より

私の考察としては、一番大きなポイントは、ヒューレッドパッカードとか、フェアチャイルドセミコンダクターとかインテルとか、起業家の源流企業が存在することが大きい。 経営幹部の方などが再度 起業する とか、ベンチャーキャピタリストに転じるとか、このようなサイクルがあったからこそ、今のような環境になっているのだ。原因があって結果がある。結果だけ論じても仕方がない。

起業家主導の経済圏より

起業する際には、①いっしょに起業する仲間がいるか? ②お金をどう集めるか? といったところが大きな課題が、 ①の面では仲間はいる。 ②のお金の面はIPOなどを経験している人だれば数千万円の起業資金は用意できる。ベンチャーキャピタルはシードステージに投資する会社は少ないが、一回事業がスタートした段階であれば投資するといった会社は多くなったと感じる。

これに関してはヨーロッパもアメリカに遅ればせながら似た状況が出てきているようです。

not-i-said-the-vc-when-the-community-askedより

And now we even have our own Reid Hoffman’s i.e second generation entrepreneurs - Brett Hoberman, Saul Klein, Andrew Doe, Hugo Burge Simon Murdoch etc. - who are beginning to (re)appear on the scene and (re)invest smaller sums in the equity gap where VC’s fear to tread. i.e £250k - £1m

5千万〜2億といった、VCからすると小額すぎる額に投資していく、起業家第2世代をエンジェルとして活躍していく人々が出てきているそうです。

Ecosystem 2.0と題したブログエントリーでは第二世代起業家の絡んだベンチャー企業が色々取り上げられています。

European politicians should be delighted that we have a thriving entrepreneurial ecosystem which they have been attempting (hoping) to build to compete with the USA, principally the West Coast.

Interestingly, this ecosystem is not centering on the Universities or the government sponsored funds.

It is instead the Silicon Valley model of second time round entrepreneurs, experienced business angels and VCs who have already been through a few cycles. So we see the team behind Active Hotels either as Execs or Angel investors at Reevoo.com . We see Mel Morris of match.com as an angel investor into SoFlow.com. Firebox founder Michael Smith doing it again with Mindcandy. Pierre Chapaz, founder of Kelkoo.com is now at Index Ventures. We see second time round entrepreneurs are Eyeka (CEO Giles Babinet sold Musiwave), the Skype guys doing The Venice Project & Fon's Martin Vavarsky previously founded Ya.com and Jazztel.

上記のブログでは、ヨーロッパで最近VCマネーを受け取った企業の一覧が載っているので、興味ある方は直接
リンク元をのぞいてみてください。

ちなみにRuby On Rails を使って作り上げたシステムで、London Ruby Communityでも結構貢献しているReevoo(Read/Write Web のUKベンチャー企業紹介でもとりあげられていました)なども、経営陣にはしっかりとベンチャー第一世代経験者の人たちが入っているそうです。

話はそれますが、最近ベンチャーイベントなどに出かけると、私がよく行くLondon Ruby User Group のメンバーの人たちと顔をあわせたりします。
Ruby On Rails そのものがWeb 2.0 を代表する技術なので、それに精通するエンジニアの人たちは既存の大企業よりベンチャー企業に多いことのあらわれなのでしょうか。


起業家主導の経済圏より

起業家主導の経済圏を拡大するには、相互に学んだり、ビジネスをするといったことが重要だ。 NILSは重要な役割は相互に学び、ビジネスにつなげる場であることだ。 1年前と比べると、イベントや交流会など活発になってきたと感じる。良いサイクルが回っているのである。 新興市場の株価は低迷しているが、底力が増えている。

London のイベントは結構多いということに最近気がつきました。以前はどこでそういった情報を探せば良いのかわからなかったのですが、Vecosysという、もとTechCrunch UK & Irelandで執筆していた人のブログを購読するようになってから、そういった情報がわかるようになってきました。あとupcoming.orgMeetupといったサイトにもいろいろ載っています。

起業家主導の経済圏より

あえて課題をあげるとすると、日本の場合は安易なIPOが多いということだ。 個人的にはM&Aが活発化しないといけないと考えている。私の投資先のインタースコープ社は創業者が株式を売却した。売却して引退したわけではなく、次の事業を行っているのだ。

ヨーロッパではXingというドイツ発ビジネス系SNSが昨年1億5700万ユーロでIPO(約243億円、ちなみにmixiIPO時公募時価総額1000億円)していましたが、日本ほどIPO市場はゆるくないのではないでしょうか(といっても詳しく調べてませんが、どなたかご存知でしたらコメントしてください)。


Great exits for UK Internet start-upsという記事によるとUKのメディア系会社が活発なM&Aを続けているそうです。

Futurescape researched UK Internet start-ups that have exited between 2005 and January 2007 through sale to major media owners.

It found that the media owners bought up Web sites for a total of £274m - plus another £120m in the ITV/Friends Reunited deal.

This is by no means a definitive list – thanks to Saul Klein for pointing out the News International deals – but it shows conclusively that there is already a well-established market for UK-based companies to start and exit.

Types of company acquired include price comparison, classified advertising, recruitment, property, dating and user-generated content. The typical time from launch to exit is about four to five years (eg 2002 – 2006).

過去2年間で大手 UKメディア会社が買い取ったウェブサイトの総額は
3.9億ポンド(約890億円)。Mixi時価総額より低いところがちょっと悲しいですが、買収の対象とされるサイトは価格比較、広告、求人、不動産、デートサイトといったものが多いそうです。

起業家主導の経済圏(その2)より

また、シリコンバレーの場合、スタンフォード大学発 がある といった産学連携が例に挙がる。 Googleは代表的な例だろう。 Netscapeももともと大学の研究だ。

GoogleのIPOによって、スタンフォード大学は3億3600万ドルのキャピタル・ゲインを得たそうだ。 このキャピタルゲインがさらに教育設備の充実など投資される。 お金が循環するのだ。 もちろん、失敗も多いのでしょうが、3億ドル! というのは凄いですよね。

キャピタルゲインとか寄付とかで還元されていくお金を次の世代に投資されていく。こういったサイクルが重要ですよね。

大学との関係に関しては
「London's emerging young entrepreneurial scene」と題したブログがImperial 大学の重要性について述べています。

This issue has really come into focus for me as I've started to spend time with some of the rare people who are coming straight out of university to start Internet businesses. Some are staying in the UK and some have headed off to Silicon Valley - but I've been really impressed by the appetite for building startups by this group drawn primarily from Oxford and Imperial universities.

For the London startup community, Imperial and its talent pool must be one of our best hidden secrets. It's rated 1st in Europe and 4th in the world for technology by the Times Higher Education Supplement. Imperial's Computer Science department has around 600 undergrads and 400 PhDs, so it's great to see some of these people begin to start companies. In fact the student body has created Imperial Entrepreneurs (disclosure: I'm one of the founding patrons) to help potential student entrepreneurs reach out to London's established entrepreneurial and venture community to kick start opportunities.

Imperial大学のコンピューターサイエンス学部は世界でもTop4に入るそうです。ここの大学の卒業生やベンチャーキャピタリスと達を中心とした団体もあるようです。

そういえば前回Minibarであった起業家の一人もImperialに在学中からビジネスを立ち上げたと言っていました。

ここまでの比較で私なりの感想を述べてみるとこんな感じです。

  • 日本の方が資本市場は充実

同じSNS企業の株式公開でも日本の方が3倍と規模が多いのは発見でした。日本の方が過剰評価されている分、市場が健全でないかもしれませんが、起業家からすれば資本市場が大きい方がモチベーションは高くなるのではとも思います。ただベンチャー市場全体としては少数の人が大金を得るよりも、より多くの人が小額の資金を得た方が、全体としては活性化するのでしょうか。基本的に最近のインターネットベンチャーは2〜3人のひとが半年ぐらい開発すればそれなりのものは出来上がるので数千万円ですら最初はいらないと思います。いかに1~2000万ほどの資金を調達しやすい環境を作り上げるかがキーといったところでしょうか。

  • Europe全体ではMySQLSkypeといった技術指向の会社が成功しているが、イギリスではどちらかというと広告を中心としたメディア系サイトに偏っている気がする。

個人的な見解ですが、イギリス人はプレゼンが非常に上手。2012年のオリンピックをパリでなく、交通機関が全然劣っているロンドンが勝ち取ったのもまさにそこにあると思います。2005年のオリンピック招致合戦のさなかにパリとロンドンの両都市を訪れたことがあります。ロンドンはオリンピック誘致審査員がロンドンを訪れるのに備えて、町中にオリンピックのロゴが張り巡らされ(下の図柄の五色はテムズ川とロンドン東側に位置するドックランド再開発エリアの形をモチーフにしています)、まさにオリンピックが開催されているかの雰囲気を醸し出していました。

http://ppleyard.org.uk/postimages/london2012.gif

逆にパリなんかは交通機関が格段にきれいで良いにも関わらず、電車の扉に小さなステッカーが張っている程度でした。

そういったことも踏まえて、イギリスでは「いかによく見せるか」に特化した広告系サイトがにぎわっているのかなと思いました。

あと、イギリスが英語圏(英語の発祥地なので当たり前なのですが)というのは2つの意味を持っていると思います。他のヨーロッパ圏は英語が母国語でないため、世界に対する情報発信はイギリスに劣る分、技術に特化することで「見てくれやプレゼンはいいからとにかく使ってなんぼ」といった技術面にシフトする傾向があるのではないでしょうか。ちょうど日本がメーカーとしては世界的に成功してけれど、情報発信面ではメーカーほどの存在感を出せていないことと共通すると思います。じゃあイギリスが世界のメディアでトップに君臨しているかというとそうではなく、アメリカの後塵を排している感があります。 英語を母国語とすることで「世界に情報発信は上手だけれど、常に米国と張り合わなければならない」というジレンマがイギリスにはあるのではと思います。

  • イギリスの場合、大学にタレントは揃っているし、それをバックアップする体制も日本より整っているっぽい。でもGoogleなどのような成功事例はまだ見当たらない。


といったところでしょうか。
日本の状況と比較してみるといろいろ発見がありましたが、いかんせん部外者の私にとってヨーロッパベンチャーのキーマン達の間柄に日本の「76年世代」みたいな関係性があるかどうかまではわかりません(ちなみに私は75年生まれですが、日本にいる間はそんな世代があったことすらしりませんでした...)。

一度ヨーロッパのブログなのでよく取り上げられる人のバックグランドを掘り下げたエントリーを書いてみようと思います。




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