FOWA: Webスタートアップの未来 by Paul Graham その二

前回に続きPaul Graham の講演のリポートです。彼の講演の和訳はここにでています。


6. スタートアップハブは存続する

このトピックは今回のカンファレンスで最も不評な部分でした。まず引用を受ける前に、このFOWAのイベントがヨーロッパ(ロンドン)で行われたということを念頭に置いてください。

スタートアップハブにいるべきかという問題は、外部の投資を受けるべきかという問題と似ている。問題はそれを必要とするかということではなく、それにより何らかのアドバンテージが得られるかどうかということだ。なんであれアドバンテージをもたらすものは、競合がそれを持ちあなたが持たないとき、競合のアドバンテージとなる。だから誰かが「我々はシリコンバレーにいる必要はない」と言うとき、「必要」という言葉は彼らがこの問題を正しく把握していないことを示している。

Paul Grahamのスピーチが終わった後、司会者のRyan Carsonはこのように述べています。

「Paulにたった今 "Thank You" と言ったけど、実はかれに感謝する気持ちはなかった。僕たちはスタートアップ=シリコンバレーという図式に疑問を感じ、このスタートアップのすばらしさを世界中の人達とシェアしたいという思いでヨーロッパまで来てカンファレンスを行っているのに、彼のスピーチ内容はその意図と反しているし、私はそのことに同意しない」

みたいな感じだったとおもいます。

この発言の後、Ryanに向けて盛大な拍手が向けられました。



私自身は「Paulは会場全体を敵に回しても自分の意見を貫いているのはすごいな」と感心しつつ、やはりRyanの気持ちもわかるなと思いました。


後でPaulと直接話す機会があったので、サインを貰いつつ "I am nobody at this moment, but I will one day prove you are wrong that startup has to be in Silicon Valley"(私は今は無名ですけど、将来きっとベンチャーシリコンバレーでないとだめ、といったあなたの発言が間違いだと証明してみせますからね)と大層な啖呵を切っておきました。


シード投資は全国的どころか国際的なものではないか? 面白い質問だ。そうである兆候がある。私たちの元にはアメリカ国外から創業者が流れこんでおり、彼らはとりわけよくやる傾向がある。彼らが別な国に行くことも厭わないほど成功することへの決意を持っているためだ。

シード投資ビジネスが国際的であるということは、新しいシリコンバレーを作るのを難しくするかもしれない。スタートアップが移動可能なものであるなら、地元の最高の才能は本物のシリコンバレーに行くだろうから、地元に残る人は引っ越すだけのエネルギーを持たない人たちということになる。

この点に関しては一言いいたいことがあったのでPaulに次のように述べました「創業者自身が投資家からビザを貰ってアメリカに行ってもいいと思うけど、その配偶者には労働ビザがおりないんじゃないですか?配偶者のキャリアも尊重するのならそれはどうすれば良いのでしょう。ヨーロッパに行く場合は、ビザがおりた本人の配偶者にも同等のビザがおりるので、その点はヨーロッパの方が進んでいると思いますよ」。そうすると「そういえばシリコンバレーまで海外から引っ越してきた人はみんな独身だったね」と言っていました。

今回のカンファレンスで知り合った他の人とあとでメールのやり取りをしたのですが、彼もこの点は不満らしく「引っ越したくても様々な理由で引っ越せない人もいるだろうに、そういうのを熱意を計るバロメターとして利用してほしくなかった」と述べていました。

基本的にPaulは全ての人をよろこばせるためにものを言う人ではないし、今まで起業に躊躇していた若い人を励ます意味ではとても良いことを言っていると思います。ただ、せっかくスタートアップの裾野を広げたいと思っているのであれば、20代でない人達やシリコンバレー以外の人達も勇気づける方法を考えても良いのではと思います。

若いころ起業を夢見ていた人や、日本でがんばろうと思っている皆さん、お互いがんばってPaulがまちがっていることを証明しましょうね。

7. より良い判断が必要とされる

大企業の人間で、もっと早くしていれば2000万ドルで買えたスタートアップを2億ドルで買ったということで処罰された人は今のところいないが、そういうことで処罰される人が出るようになるだろう。

ここで「2億」という数字を持ち出したのは、ロンドンのスタートアップ企業last.fmが大手メディアのCBSにちょうど2億ドルで買収されたことと関係づけていると思われます。

8. 大学は変わる

私は大学の学位が本当に重要なものに思われていた時代に育ったため、このようなことを言うのには不安を感じるが、学位には別に魔術的な力はないのだ。最後の試験を通る前と後とで魔法のように何かが変わるわけではない。学位の重要性は、まったくのところ大きな組織の管理上の必要に基づいている。これは確かにその人の人生に影響を与えるが(大学を卒業せずに大学院に入ったりアメリカの就労ビザを取るのは難しい)、このような基準の重要性は下がり続けるだろう。

先ほどもビザのことを軽く触れましたが、海外で成功しようと思っている起業家にとってビザは鬼門といっても良いでしょう。Lingrの作者の方が「デスマーチ化するビザ取得手続きというエントリーでアメリカビザ取得に相当苦労したことを述べています。これは起業に大して色々なハードルが下がってきている中、「国」が最もかわっていないことを示唆しているのではないでしょうか。アメリカ以外の国(カナダ、オーストリア、イギリス)でもビザを貰う際「大学を出たか」というのは実際に評価ポイントに大きく左右してきます。

Q&A
ウェブには載っていませんが、彼のエネルギッシュ(あるいは扇情的)なスピーチは多くの質問を呼びました。
全ての質問は覚えていないのですが、以下の2点が印象に残りました。

  • Q:メディア側にいる人間としてはヨーロッパのベンチャー市場を活気づけるために何をすべきか
  • A:やはりスタートアップのことを少しでも多く取り上げることだろう。スタートアップ企業のドキュメンタリーなんか作っても良いし、やはり間近な例を多くの人に知らせることが重要だろう。